「塩化ビニール」でできたワッペン・素材のすぐれた特性と要注意点

PVCワッペンは、シリコンワッペンと同じように金型に素材を流し込んでつくる立体感のあるワッペンです。

PVCワッペンでは「塩化ビニール」をつかう

塩化ビニール

PVCワッペンでもシリコンワッペンと同様に金型をつかって成形しますが、流し込む素材はシリコンゴムではなく「PVC=塩化ビニール」です。

そのほかの性格や特徴はシリコンワッペンと変わりません。形状は盾を模したホームベースに似た形や円形が基本です。しかし、元来「紋章」に描き入れるシンボルを取り出してそれ単体でエンブレムとするケースもあります。ドクロの形や「バイオハザード」のマークの形などはよく見かけます。

そういった点も含めて、用途や形状、特徴はシリコンワッペンと変わりません。

「塩化ビニール」は身の回りにたくさん

ラバー素材

「塩化ビニール」はよく耳にする素材名です。実際、身の回りにある品物に、意外なほど多岐にわたって使用されています。たとえば衣類の繊維、壁紙、バッグ、クッション材、断熱材、防音材、保護材としてインテリア製品に、縄跳び用のロープ、電線の被覆(絶縁材)、網戸などの防虫網、包装材料、水道のパイプ、建築材料、農業用資材(ビニールハウス用など)、LPなどアナログレコード盤、消しゴム、ソフビ人形などです。身の回りを塩化ビニール製品に囲まれていると言っても過言ではないでしょう。

塩化ビニールはなぜ使われる?

塩化ビニールロール

塩化ビニール PVC polyvinyl chloride は、正式には「ポリ塩化ビニール」と呼ばれる合成樹脂のひとつです。塩化ビニールモノマーを重合させることで作られます。

単純に塩化ビニールモノマーを重合させただけの樹脂は硬くてもろいうえ、紫外線があたると分子の中の塩素原子が外れて劣化しやすいという欠点があります。ですから、実際にはやわらかさを調節する「可塑剤」と劣化をふせぐ「安定剤」を加えて性状を調整して使います。

性状を調整した塩化ビニールはたいへんすぐれた特性を持ちます。これが広範な塩化ビニール活用の理由になっています。

可塑剤の添加量を調整することで、塩化ビニールは硬質にも軟質にも自由に硬さを変えられます。またすぐれた耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性もあります。さらには燃えにくい難燃性もあり、熱を伝えにくい低い熱伝導率を持ち、電気を絶縁する電気絶縁性もそなわっています。比重は1.16~1.35と、身の回りにあるさまざまな素材の中でも非常に軽い部類に属します。

これほどまでにすぐれた特性がありながら、安価で簡単に作れるところも広く使われる大きな理由です。ガラスを生産するときに生成する副産物である塩素ガスが重量の半分を超える原材料で、これが非常に安価なのです。こうした理由から、塩化ビニールは広く大量に利用されます。

PVCワッペンの特徴

ワッペン素材星

上述のように、可塑剤の添加量によって硬さを調整できるのが塩化ビニールです。PVCワッペンでは、水道パイプのようにコチコチにはせずに、シリコンワッペンと同じくらいの硬さに調整します。そのためゴムのような弾力があります。

また塩化ビニールの特性から言って耐久性にすぐれます。水、酸、アルカリに強いのです。熱には強いとはいえず、高熱に触れると溶けてしまうのですが、燃えてしまうことはありません。

シリコンワッペンと同様に、金型に流し込んで成形します。細かい線や文字もきれいに表現できます。文字やロゴ、図柄が浮き出す立体感があり、小さなワッペンでも大きな存在感を示します。

ただし塩化ビニールには泣きどころも

太陽と雪山

数々のすぐれた特性を持つ塩化ビニールですが、すくないながらも弱点があります。

低温環境では弱くなる

常温では耐久性にすぐれていますが、摂氏5度を下回るような環境に置かれると耐衝撃値が急激に低下します。もろく、割れやすくなるのです。

熱・太陽光に弱い

塩化ビニールは熱伝導率が低く、ほとんど熱を伝えませんが、熱膨張率が高いという性質もあります。

そのため、太陽光を長時間浴びせ続けるなど、熱を受け続ける状況に置かれると、熱せられた表面ちかくの部分だけが膨張することになり、塩化ビニール製品全体が曲がったり反ったりすることもあります。また太陽光の紫外線により、素材表面が白化して色あせが生じることもあります。

熱を加えると溶けることはすでに書きましたが、具体的には65~85度くらいで軟化しはじめます。それを超える温度になると溶けます。

ある種の有機溶剤には弱い

シンナーやアセトンなど、芳香族炭化水素系の有機溶剤には溶けてしまいます。

応力集中による強度低下が起こる

塩化ビニール製品のどこかに穴やキズがあると、外部から力が加わったときにその穴やキズに応力が集中し、そこから割れたり切れたりしやすくなります。

PVCワッペンの取扱注意事項

炎

以上のような「塩化ビニールの弱点」から、PVCワッペンの取り扱いについて気をつけたいポイントが導き出されてきます。

寒いところで曲げる力を加えないようにする

5度以下の低温環境下ではもろく、割れやすくなるので、そのような状況下では曲げたり折ったりといった動作を加えるのはよくありません。ただ、関節など動きのある部分にワッペンが付けられることはあまりないだろうとは思われます。

高熱にさらさない

85度を超える熱に溶け始めます。点火しているストーブにちかづけすぎたり、熱湯をかけたりすると溶けてエンブレムの文字や図柄をこわしてしまうこともありますので、気をつけましょう。

直射日光に長時間さらさない

直射日光の熱によりPVCワッペンの表面だけが膨張し、ワッペン全体が反ったりゆがんだりすることもあります。また、紫外線の影響で色あせも起こりえます。長時間、直射日光にさらすことはさけましょう。

ドライクリーニングには要注意

「シンナーやアセトンなど、芳香族炭化水素系の有機溶剤には溶ける」と書きましたが、街中のクリーニング店でおこなわれるドライクリーニングでは、まさにその類の有機溶剤が使われていることがあります。PVCワッペンの付いた衣服をその有機溶剤でクリーニングすると、ワッペン部分が溶けて破損してしまうおそれがあります。

また、シンナーやアセトンではない有機溶剤でも、PVCワッペンの素材に含まれる「可塑剤だけを溶かす」ことがありえます。そうしますとPVCワッペンは硬くなり、ラバーのような弾力的触感が失われて割れやすくなります。

シリコンゴムのワッペンではこうしたことは起こらないのですが、問題は「シリコンなのかPVCなのか、外見からはわからない」点です。衣服のどこかについている「家庭洗濯等取扱方法」の表示をみれば「ドライクリーニングの可否」は確認できますし、クリーニング店のスタッフが注意を払ってくれることもあるでしょうが、念のため「ラバー感のあるワッペンが付いている服はドライクリーニングに出さない」くらいの慎重さがあってもいいかもしれません。

なお、PVCワッペンにかぎらず、合成皮革製品には塩化ビニール樹脂がベースの生地に使われていることがあります。この種の合成皮革製品をドライクリーニングすると、生地をやわらかくしている可塑剤だけが溶脱し、カチカチ、ゴワゴワになってしまいます。このことにも注意していただければと思います。

PVCワッペンには大きなメリットが

ポップなデザイン

塩化ビニール製ワッペンの弱点と取扱注意事項に触れてきましたが、その前段に触れたように、この素材には数々のすぐれた特性があります。さらに言うと、PVCワッペンはシリコンワッペンよりも安価に作れるのです。それでいて表現性はシリコンワッペンになんら遜色ないのですから、PVCワッペンはたいへん有力な選択肢と言えます。